「地域社会における建築物の再生と活用に関する優良事例アンケート」 序文  戻る

環境と文化の21世紀を共に歩む
 今、日本には、日本の伝統や近代化の足跡を示す建物があります。これらの建物は、時間の経 過とともに、ごく一部の貴重な建造物を除き、その多くが古い建築、危険な建築として取り壊さ れています。中には、まだまだ使うことができるにもかかわらず、新しい建物に代替させるため に取り壊されています。

  1996年、登録文化財制度が法律で定められ、これらの建物の保存にむけた前進がありまし たが、この制度は未だ周知到底されていません。文化財を保存すべき責務を負っている地方公共 団体でさえ、登録文化財に該当する建物を壊して新しい建物に建て替えることに無頓着です。文 化財と言えば、見るものとして保存するという観念にとらわれがちです。しかし、ヨーロッパの 町並で見られるように、使いながら保存する、あるいは保存しながら使うことによって、潤いと 歴史を感じさせる街並みが出来ていくこともあるのです。

  戦後の日本は空前の経済的繁栄を享受し、建物についても、「造っては壊し、造っては壊し」 の連続でした。建物の資産価値も二・三十年たつとほとんど無いに等しく、土地だけが評価され るという仕組みの中で、建物を見る目も「新しいものは良いもの」で、時間がたってものは特に 貴重なものを除いて「古くさいもの」と否定的に見られてきました。大量生産、大量消費、大量 廃棄の生活様式の中で、不動産である建てものも消耗品として扱われてきたのです。

  しかし、建物が消耗品として扱われる時代、新しい建物は新しいが故にそれだけでよいという 時代は、20世紀で終わりました。建物は社会的な資産であるとともに、潜在的な廃棄物です。 戦後に建てられた多くの建物は、まもなく耐用年数を迎えようとしていますが、そこから排出さ れるであろう膨大な量の建設廃棄物を受け入れられる最終処分場は確保されていません。あふれ る建築廃棄物は放置しておけば、不法投棄をもたらします。実際、建築廃材は、産業廃棄物の約 2割、最終処分場の約4割、不法投棄の約9割を占めています。この問題の解決には、建物は長 く使うことを先ず考え、どうしても壊さざるを得ない場合は手間とお金をかけて建設廃材の多く をリサイクルしていかなければならないのです。建物を壊すのではなく、再生させて快適な空間 を作り出す技術は、既にあります。21世紀の循環型社会では、この建物再生技術を使っていく ことが経済的にもペイしていくような制度づくりが進んでいきます。国では循環型社会形成推進 基本法が制定され、建築廃材リサイクル法など循環型社会をつくっていくための法律が次々とで きています。このような社会改革を加速していくには、建物は使えば使うほど味が出てくるとい う年月を経た建物を評価してゆく価値観の転換も必要です。

  21世紀を迎えて、環境と文化のいずれの観点からも、日本の建物の考え方を転換する時期に きています。これまでの「新しいが故に良い」という考え方や「造っては壊し」の繰り返しは過 去の価値観です。自然の光や熱を利用するなど限りある環境を守れるように設計された建物を建 てることだけでなく、ごくふつうの建物でも修繕をしながら長く使っていくことが時代の先端を 歩む価値観です。環境と文化を尊重する新しい時代の先端を多くの人が共に歩むことになること を希望しています。

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